…………。
わたしの理解の範疇を軽く超えた事態が発生した。
こういう話は小説の中では良く見る。むしろ王道と言っていいと思う。
「おい、長門。大丈夫か?」
普通ならわたしのように混乱するしかないと思うけれど、彼はとても落ち着いている。
何故だろう。何故そんなに落ち着いていられるのだろう。
わたしと、彼の体が入れ替わっているというのに。
それは突然のこと。
部室でいつも通り彼と一緒に本を読んでいた時のことだ。
いつもと同じで、あまり会話は無かった。
二人がページを捲る音意外、他の音は何も無い。
―――不意に、全ての音が途切れた。
音が消えたのとほとんど同時に、視界まで一瞬何も見えなくなる。
驚いてわたしが視線を上げると、部室が変わってしまっていた。いや、正確に言えば部室は変わっていない。見る角度が変わったために、部室自体が変わったように見えたのだ。
「…………これは、一体」
聴き慣れているような聴き慣れていないような誰かの声が聴こえた。わたしが思わず声のした方を見ると、そこには見慣れた顔が。
毎朝洗面所の鏡の中に見る顔が。
つまり、わたしの顔が。
…………。
思考が停止した。何が起こっているのか、すぐには理解できない。
硬直しているわたしに対し、目の前にいる『わたし』は自分が持っていた本を見たり、自分自身の身体を見渡し、わたしの方を見て何か納得したように頷いた。
それから疲れたように溜息を吐く。
「まさか、『こっち』でこんなことになるとは…………」
そう微かに呟いた声が聴こえたが、一体どうしたのだろう。
まだ衝撃から立ち直れないわたしに向かって、目の前の『わたし』が口を開いた。
「おい、長門? 大丈夫か?」
そう言った。わたしの顔と声で。
「…………え?」
思わず口から出た声は、いつものわたしの声と違い、とても低い。
「…………あれ?」
やはり、低い。
何が何だかわからないままに視線を落とすと、そこに見慣れた制服は無く、代わりに彼がいつも着ている制服が。…………いや、制服以前に身体が…………。
「落ち着け、長門」
とても落ち着いた言葉が投げかけられた。
「とにかく、落ち着け」
そう言われても、簡単には落ち着けない。
「い、一体何が…………」
溜息と共に目の前の『わたし』が言う。
「長門。どうやら妙なことになっちまった」
やけに落ち着いている、というか諦観しているような口調だった。
「何故かはわからないが…………俺たちは『入れ替わった』みたいだ」
目の前の『わたし』の言葉をわたしは理解して、気が遠くなった。
放課後の部室。
突然起こった代替騒動。
その中でわたしは、ただ呆然としていることしか出来なかった。
そんなわたしに対し、目の前の『わたし』―――彼、はとても落ち着いている。
「とにかく、入れ替わった理由はわからないけど…………そろそろやばいな」
何がやばい、というのだろう。
わたしの疑問に、彼は応えてくれた。
「ほら、今日は…………」
彼のその言葉で、わたしも今日の予定を思い出す。
そういえば、珍しく今日はSOS団の集合がある日だった。
普通、平日は学校が違うため全員集合していないのだが、今日は涼宮ハルヒのきまぐれで例の喫茶店に集合することになっている。タイミングが非常に悪い。
「電話するか…………? でも、ハルヒがそんなんで納得するとは思えないな」
顎に手を当てて考えている彼の姿をわたしは見る。
自分自身の外見だけど、とてもわたしの身体とは思えない。
全くの別人のようだ。
人格に影響されるのだろう、かなり顔付きも変わって見える。
それなら、いま、わたしが入っている彼の身体はどんな表情を浮かべているのだろう。彼が滅多に浮かべないような、珍しい表情を浮かべているかもしれない。
わたしは鏡を持ってないのを少し悔やんだ。
それさえあれば、いまの自分の顔を見れたのに。
彼の顔が浮かべる珍しい表情が――――
「長門、どうすればいいと思う?」
心ここにあらずだったわたしは、彼に突然話しかけられて飛び上がるほど驚いた。
そんなわたしの反応を見て、彼は申し訳無さそうに頭を掻く。いや、掻く寸前で止まった。
髪質がいつもと違って驚いたのだろうか、髪に触れた瞬間、静電気に触れたようにびくりと動きを止め、少し慌てた様子で手を下ろした。
「すまん、長門。そりゃ混乱してるよな」
「…………なぜあなたは混乱してないの?」
「あー…………えーと…………慣れ、かな?」
「入れ替わりを以前にも経験しているということ?」
「いや、そうじゃなくて…………そ、そんなことはともかく、今はどうやってこの事態を切り抜けようかってことが重要だ」
あからさまに話を逸らされたけど、それ以上突き詰めることも出来ず、わたしは現在の事態を打開する術を考えることにした。
「…………」
「…………」
わかるわけがない。一緒に階段から落ちて入れ替わった、とかならともかく、原因も理由もわからず突然入れ替わったのだから。
そもそも、何が引き金となったのかもわからないのだ。
あの時わたしと彼がしていたのは本を読んでいたことだけだ。
全くわからない。
わたしよりも落ち着いている彼もそれは同じだったようで、
「まあ、とにかく今日のSOS団集会をどうするか、を先に考えるか」
入れ替わりを元に戻す方法はとりあえず脇に置いておくことにした。
彼の言うとおり、そちらも対処しなければならないのだ。
「…………欠席する?」
「ハルヒがそれを認めると思うか?」
正直、思わない。
下手すれば家まで怒鳴り込んで来るだろう。
「だよなあ。…………やっぱり、行くしかねえか。とりあえず、入れ替わっていることがばれないようにしようぜ。ハルヒにばれたら間違いなくオモチャにされる」
わたしもそれは避けたいところだったので、即座に頷いた。
某喫茶店・店内。
「遅いじゃない、ジョン! 有希ちゃん!」
凉宮ハルヒの声が喫茶店中に響き渡った。客の視線が一斉にわたしと彼に向けられる。
注目されて、少し心拍数が上がってしまったけど、今のわたしは『彼』であり、下手に紅潮したりしたら変に思われる。
全精神力を動員して、冷静さを保ち、『彼』になったつもりで、予め彼に教えられていた台詞を言う。
「す、少し用事があったんだよ。みっともないから、叫ぶな」
「用事なんて蹴飛ばしてきなさい! SOS団の活動は最優先事項なんだからね!」
「無茶を、言うな」
「まあいいわ。そこに座りなさい。もうみくるちゃんも来てるわよ」
ちなみに、ここまでの会話でアドリブは全く入っていない。彼が予測したままの会話だった。何故ここまで凉宮ハルヒの思考を読めるのか、少し不思議に思ったけど、彼に尋ねても少し困った風に笑うだけで、答えてはくれなかった。
わたしとわたしの姿をした彼は、並んで涼宮ハルヒたちの前に座った。
「…………それで、今日は何を?」
これも、彼から教えられた台詞。
「当然、いつもの市内探索よ」
これも、彼の予想通り。ちなみに、わたしの姿をした彼は『わたし』の演技なのだろう、一言も喋らず涼宮ハルヒをじっと見詰めていた。
わたしと彼が入れ替わっていることに気付いていないだろう凉宮ハルヒは、得意げな表情で語り出す。
「やっぱり、不思議なものを見つけるためには、いつも同じ時間ばかりに探索してちゃダメなのよ。時間帯や場所をずらして探さないと。そういうわけで、二組に別れて早速探索を始めるわよ。あまり時間がないんだから、早く始めないと」
この組み分けで運良くわたしと彼が一緒になれればいいのだけど、彼は『そう上手くはいかないだろうな。ただ、お前とハルヒが二人だけっていう組み合わせだけはなってほしくない』と言っていた。
確かに、そんなことになったら、わたしは彼女を騙し続ける自身がない。
ただ、こういう場合、一番成って欲しくない事態に成るのが相場だ。
「じゃあくじを引いて。ほらほらさっさと!」
時間が無いからか、凉宮ハルヒは私たちを急かした。
覚悟を決めて、わたしは凉宮ハルヒが差し出す爪楊枝のくじを一本引く。
彼や古泉一樹、朝比奈みくるもくじを引いた。
結果は―――――
「ふーん、ジョンと古泉くん、あたしと有希ちゃんとみくるちゃん、か。男子と女子に別れたわね」
辛うじて最悪の事態だけは避けられた。
彼曰く、『もし古泉と一緒になったら、機嫌が悪い振りしてほとんど話すな。話せばどうしたってぼろが出るし、古泉なら自分一人で勝手に話し続けるさ』とのことだった。
ある意味良いくじ運だったかもしれない。
そう思ってわたしは古泉一樹の方を向く。
――――スマイル零円の顔が、こちらを見ていた。
…………前言撤回。
何か、嫌な予感がする。
「いや、今日は珍しく僕とあなたの組み合わせになりましたね。普段は無いことですのでびっくりですよ」
いま、わたしは古泉一樹と一緒に街中を歩いていた。
『あの人』以外の男性と共にいる機会など全くないので、正直少し緊張している。
会話はしていないけど、『あの人』の予測通り古泉一樹は一人でずっと喋り続けている。よく会話する話題が尽きないな、と少々感心してしまった。
「ところで―――」
突如、自分の日常について延々と語っていた古泉一樹が、話題を転換した。
何だろう、と少し耳を傾ける。
「今日は随分静かですね? 長門さんみたいに」
一瞬、心臓が止まるかと思った。
「そ、そ、そう、か?」
辛うじて声に出した言葉は、切れ切れで余計に怪しまれてしまうだろう。『彼』の言いつけどおり黙っておくのが正解だ。
わたしのそんな心中など知らない古泉一樹は、にっこりと得体の知れない笑みを浮かべた。
嫌な予感がする。
「んー何と言いますか。本当にアナタらしくありませんね?」
古泉一樹がずずい、と顔を近づけてくる。
思わず仰け反って避ける。
「え…………」
「何と言いますか、いつもと違って、どことなく『可愛い』ですよ」
じりじりと街路の壁際に追い詰められる。
ま、まさか、古泉一樹には『そういう』嗜好が!?
「そうですね、それこそ食べちゃいたいくらいですよ…………♪」
「…………っ!」
瞬間、背筋に怖気が走った。
逃げ出したいけど、壁に追い詰められている。
古泉一樹の顔が、どんどん迫って来る。
周りに視線を走らせたが、誰もいない。あまり人通りの無い通路なのだろう。
まさかこれを見越して、ここに誘い込んだ?
とにかくこの状況を何とかしないと。けど、もう古泉一樹の顔が目の前まで迫っていて逃げられない!
だ、誰か助け
「なんて、ね。冗談ですよ、長門さん」
…………え?
呆気に取られて、古泉一樹の顔を見た。
古泉一樹が浮かべているのは、意地の悪い笑み。
「これでも、観察眼には自信があるんです。凉宮さんをずっと見ていたら身に付きました。このSOS団が出来るまで、彼女はいつも不機嫌で表情がわかりにくかったですからね。とにかく観察して、僅かな表情の変化から些細な行動の変化、それに細かな癖や仕草まで…………全て把握できるように頑張ったんですよ」
それは、凄い。
「長門さんや彼の表情や行動、癖、仕草も把握ずみです。それを今日の貴方達に照らし合わせて考えればすぐにわかることです」
古泉一樹はそう言うが、実際そこまで出来る人はそうそういないだろう。密かに凄い人なのかもしれない。
でも、ばれてしまったのはまずい。古泉一樹は凉宮ハルヒに好意らしきものを抱いていると『彼』が言っていた。そんな古泉一樹なら、凉宮ハルヒを喜ばせるためにわたしたちが入れ替わっていることを凉宮ハルヒに言うかもしれない。
何せ、凉宮ハルヒが望んでいた超常現象が起こっているのだから。
「あ、あの」
黙っていてもらうしかない。そう思ったわたしは、古泉一樹にそのことを言おうとした。
しかし古泉一樹は人差し指を口の前で立ててわたしの言葉を封じる。
「皆まで言わないでください。もちろん、凉宮さんには言いませんよ。あなたと入れ替わっている彼は僕の友人ですし、その彼を困らせるのは止めておきます」
両の掌を上に向け『やれやれ』という風に古泉一樹は肩を竦めて見せた。
その言葉は素直にありがたかったけど、古泉一樹は本当に芝居がかった動作が好きなんだなと思った。
「お疲れーっ! ジョン! 古泉くん!」
定められた時間が過ぎ、わたしと古泉一樹は再び集合場所に戻ってきた。
するとそこにはすでに凉宮ハルヒたちが居て、大量の紙袋を抱えていた。
…………また、嫌な予感。
古泉一樹は席を占拠していた紙袋をどけて座りながら、凉宮ハルヒに向かって話しかけた。
「凄い量の紙袋ですね、これは一体なんですか?」
凉宮ハルヒは得意満面の笑顔で、
「男女に別れたんだし、折角だからってことで、ショッピングをして来たのよ♪ あ、勿論不思議探索もしたわよ?」
なるほど、それでこんなに沢山の紙袋が…………え、ショッピング?
嫌な予感が更に強まったわたし。凉宮ハルヒは笑顔で続ける。
「いやー、有希ちゃんやみくるちゃんは、着せ替えさせ甲斐があったわ!」
…………え!?
思わずわたしが『わたし』の身体に入っている彼の方を見ると、心底申し訳無さそうに、こちらに向かって頭を下げている彼がいた。
み、見られた?
わたしの、発育もよくない、貧相な体を?
一瞬、気が遠くなる。
そんなわたしの気持ちなど知るはずも無い凉宮ハルヒは、幾つかの紙袋を持って立ち上がる。
「じゃあ今日はこれにて解散! 次の休みに集合してくる時は、今日買った服を着てきなさいよ、有希ちゃん、みくるちゃん」
「は、はい」
こう言ったのは朝比奈みくるで、わたしの身体の彼は軽く頷いただけ。
嵐のように涼宮ハルヒが去った後、古泉一樹と朝比奈みくるも立ち上がった。
「では、僕も失礼させていただきます」
「じゃ、じゃあわたしも帰ります。それじゃ」
去り際に古泉一樹がわたしの肩を軽く叩いていった。励ましてくれたのかもしれないけど、薄笑いを浮かべながらだったから嫌味にも受け取れた。
二人が帰ってしまったため、あとにはわたしと彼と、そして数個の紙袋…………。
気まずい。
暫くお互い無言の時が過ぎて、彼から口を開いてくれた。
「あの、さ、長門…………すまん。止めようとしたんだが、相手がハルヒだから、さ」
それはわかる。
あらゆる意味で、走り出した凉宮ハルヒを止めることなんて出来ない。
だから、彼を責めても仕方ない。
「…………いい。不可抗力」
わたしはそう呟くことで彼に応える。
すると彼は安堵したような表情を浮かべた。
「そう言ってくれると、助かる。…………お前に嫌われたくないから、さ」
あなたをわたしが嫌うなんてことは、まず有り得ない。口には出せないけど。
少し和やかな雰囲気になったところで、彼が再び口を開いた。
「とにかく、色んな意味で早く元に戻らないといけないな…………こうなっちまった理由とか、きっかけがわかればいいんだけど…………」
あの時の再現をしてみてはどうだろう、とわたしは彼に提案した。
なるほど、と彼は頷く。
「何もわからない以上、試してみるしかないな…………じゃあ、急いで学校に戻ろう。まだ空いている筈だ」
ちなみに、今の時刻は六時半。遅くまでやっている運動系のクラブは七時までやっていることもあるので、まだ不法侵入をしなくても校舎内に入れる。
わたしと彼は、大急ぎで学校に戻った。
「あの時、俺たちはSOS団の集合時間までの空き時間、ここで本を読んでいた」
文芸部部室で、彼は話しながらあの時の状況を確認している。
「長門はそっちの席で、俺はこっちの席で、お互い座って本を読んでいた、だよな?」
頷く。
「読んでいた小説に問題は無いか? こういうことが起きる話だったとか」
あの時呼んでいた本は、純文学に属するもので、あまり入れ替わりとは関係ないと思う。それを連想させる言葉すら出てきていない。わたしは首を振った。
彼もそんな関連があるような本を読んでいなかったらしく、首を傾げている。
「改めて確認してみて思ったけど、本当に理由もきっかけもわからないな…………」
首を傾げて考える彼、わたしも考えてみる。
でも、何も思い浮かばない。
そもそも小説ではあるまいし、そうそう入れ替わったりする理由がわからない。
小説なら、理由やきっかけがはっきりしているのに…………小説?
わたしは部室の本棚を見る。
そういえば、確かこの蔵書の中に一冊…………。
あることを思い出したわたしは、本棚に近づいてある本を探した。それは比較的簡単に見つかった。
男女の精神転換を題材とした小説だ。要するに、今のわたし達と同じことが起こっている小説である。
何かヒントがあるかもしれない。
そう思い、わたしはそれを読んでみた。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………。
…………え。
「どうした長門?」
固まってしまったわたしを、心配そうな目で彼が見ている。
わたしはどうすればいいのかわからず、黙ったまま読んでいた本を彼に差し出した。
彼はそれを受け取って、ぺらぺらとページを捲っていく。
「なるほど、入れ替わりの話なのか…………」
そう呟きながらも、流し読みの手は止まらない。
本の終盤に差し掛かり、わたしと同じ場面で彼の動きが止まった。
「…………え…………おい、これ」
その場面は、入れ替わってしまった男女のカップルが、紆余曲折あった後に、お互いに愛情が芽生え、そして…………。
キスをすることで、元に戻る場面。
「…………」
「…………」
お互い、無言。
「…………」
「…………」
「なあ、長門…………」
「なに…………?」
「…………正直、俺には他に方法が思いつかない」
「…………わたしも」
「…………なあ、長門」
「…………なに?」
「いいか?」
何が、なんて言わない。
痛いくらいに心臓が跳ね回る。
でも―――
「…………」
彼にわかるように、はっきりと頷く。
もう、あとは無言。
無言のまま、ゆっくりとわたし自身の、けど中身は彼の顔が近づいて来て。
―――唇が、触れ合った。
「…………」
半ば呆然として、わたしは現在の状況を確認する。
視界には見慣れた天井。
「…………え」
慌てて起き上がると、布団が身体からずり落ちた。
その身体は、いつもの、発育のよくない身体。
手もいつもどおり小さくて、大きな彼の手とは比べ物にならない。
「…………夢?」
誰もいないことは判っていたけど、わたしは布団を頭から被る。
恥ずかし過ぎるくらい真っ赤になった顔を、隠したかった。
一体全体、わたしの深層心理は何を考えているのだろう。
彼とキスをするだけなら、まだわかるけど、入れ替わるなんて。
暫く頬の熱は引いてくれなかった。
その後の話―――
「ん、よお、長門」
「…………」
「どうした? 顔が赤いぞ?」
「な、何でもない」
「…………そうか?」
「…………そう」
「なら、いいけどさ…………あ、そうだ。長門」
「なに?」
「あのさ、変なこと訊くけど…………今日、夢を見たか?」
「え…………?」
「いや、今日俺、ちょっと、変な夢を見て、な。それで少し気になったんだけど…………ま、まあいいや! 忘れてくれ!」
(まさか…………?)
全ては、謎のまま。
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