『長門有希ちゃんの消失』 一巻 書評
『1〜8P』編
<今回の一言>

『これは 少し内気な普通の少女 長門有希の物語』byナレーション



 消失の長門は異能力などはありませんし、統合情報思念体の端末でもありません。
 やってることもごくごく普通で、物語もナレーション通り日常生活がそのまま描かれているといった風情です。
 もっとも、消失好きにとってはそれこそが最高なわけですがね。

 さて、そろそろ感想に入るといたしましょう。
 いよいよ本編の感想に入っていきます。


 物語は五月半ばの回想から始まります。この回想はモノローグから察するに長門視点のようですね。
 貸出カードの作り方がわからず、困っているところにキョンがやってくる、という形は自然な流れです(※1)。カウンターらしき所の前で長門がうろうろしているカットを見る限り、恐らく職員の人はたまたま作業か何かで奥に引っ込んでいたのでしょう。普通なら呼んで聴けばいいのでしょうが、長門にはそれが出来なかった、と。こういうのは私も経験があるので長門の気持ちはよくわかります。
 さて、そこに颯爽と現れたキョン。半ば強引に長門から本を受け取り、カードを作って来てやる、と申し出ます。妹がいるキョンは、結構世話焼き気質なのでしょうね。小柄な女子が本を抱えてカウンターの前をうろうろしているのを見かけて、自然と声をかけてしまったのでしょう。「……たくっ、しゃーねーな」というセリフからも、長門が無意味にうろうろしているのを暫く眺めていたであろうことが想像出来ます。

 これはある意味、少女漫画的な出遭いと言えますね。
 しかし、それにしてもこの長門は一体何の本を借りようとしているのでしょうか。いくら長門が小柄とはいえ……大きさから考えるに、この本はどうみても辞書並みの太さがありそうなのですが……。図書館と言う場所でなければ、『長門有希ちゃんの消失』の設定を考えて『ゲームの攻略本』という線も生まれるのですけど、さすがに図書館にゲームの攻略本は置いていないでしょうし……原作に忠実なのだとしたら『何だか難しい外国人が著者の哲学書』(※2)なのでしょうけれど。この作品における長門がその手の本を読むとは思えないのです。なにせゲーマーですからね、この作品の長門は。
 結局、何の本を借りようとしていたのかは謎です。


 さて、扉絵へと話題を移します。
 ここに書かれている三人は、長門、キョン、朝倉。長門が中央にいるのは主人公であるし、当然です。キョンよりも朝倉の方が大きく描かれていることに、この物語における三人の立場がわかる気がしますね(笑)。
 この扉でなぜか長門が酷く活動的なポーズをしているところが面白いですね。そして相変わらず地味なキョン。顔も地味ならポーズも地味です。まあそういうキャラですのでこの描かれ方は納得ですね。しかし、回想のところで出てくる彼の後姿は妙に格好いいです。特に長門から本を受け取った後の後姿は自然体でありながら妙に決まっています。片手で持った本を肩に当て、飄々とした足取りで歩いているように見えます。
 思うにこれは、長門視点の回想であるゆえにちょっとカッコよく描かれているのではないかと……まあ、顔が見えていないからというのもあるかもしれませんが(笑)。


 1ページ目、時間は回想から数カ月後の放課後。
 キョンと朝倉が長門を呼びに、長門のクラスまでやってきたようです。この様子を見る限り、どうやら原作通りキョンと朝倉は同じクラスで、長門は別クラスのようですね。そして朝倉は文芸部に所属していることが示されました。まあ、一巻を読む限りでは、普段朝倉が部室にやってきて活動している描写はないのですが。
 それはさておき、長門は机に突っ伏して寝ていました。眼鏡を外していないようなので、相当寝にくいと思うのですが……机の上の状況などを見る限り、授業などが終わって荷物を纏めてから寝てしまったようですね。

「ごめん、ちょっと待ってて。起こしてくる。痛い方法で☆」
「普通に起こしてやれよ」

 そんなキョンと朝倉のやりとり。いきなり朝倉が絶好調です。
 長門のつむじを親指で押し、目覚めさせます。このつむじを押すって、地味に痛いんですよね。寝ている時に突然そんなことをされたら長門じゃなくても悲鳴をあげてしまうでしょう。その悲鳴が「にゃあ――」というのはどうかと思いますが(笑)。

「身長止まったらあなたのせい……」
「じゃあ止まる方向で。長門さんは小さい方が可愛いし」

 文句を言う長門にも、朝倉さんは動じません。飄々とした調子で流してしまいます。
 そして前々回でピックアップしたこのセリフです。まったく、この世界の朝倉さんとは美味しい食卓を囲めそうです(笑)。
 朝倉は長門をずるずると引きずってます。しかも片手で。どれだけ長門は軽いんですかと突っ込みたくなりますし、大体引きずる必要があるのでしょうか……まあ、ギャグの一環かな、とそう思いました。しかしこの絵が単なるギャグではなく、次の展開への伏線だったとは……ぷよ先生は中々侮れません。
 ちなみにこのページでキョンと長門も文芸部に所属していることがわかりますが……長門が『部長』となっていることから、原作と同じく文芸部に先輩がいないことがわかります。まあ、いても邪魔になるだけですが(笑)。


 さて、教室の入り口まで引きずってこられた長門は、キョンに手を差し出されます。いままでのページがギャグパートだとしたら、これはつまりラブコメパートです。かちーん、と思いっきり硬直&赤面しながらも、キョンから差し出された手を握り、立ち上がる長門。ベタなシチュですが、これにより長門→キョンの図式が脳内で自然と完成します。ついでにキョンが『にぶにぶ』で、長門の気持ちには気づいていないのだろうな、ということも(笑)。
 からかったり怒ったり逃げたり追いかけたり転んだり手を貸してあげたり……この世界の長門と朝倉は本当に仲が良いです。本当の姉妹のようです。原作でも二人の仲がこれほど良ければ……色々変わっていたのでしょう。少なくとも朝倉さんが消滅することはなかったでしょうね。そう考えると少々残念ではあります。


 ふぅ、だいぶ長く書きました、が……実はこれでまだ見開き4ページくらいしか進んでいないという……。
 感想と言っていいのかわからないほど細かく書いてしまっていますが……まあ、のんびりとやっていきます。
 今回のところはここまでです。 




捕捉かもしれない付けたし
※1 原作『涼宮ハルヒの消失』にて、キョンと長門の出会いは図書館でカードを作ってもらった時であるとされています。ちなみに改変される前の世界でもキョンは長門に図書カードを作ってあげていて、このエピソードは世界を改変した長門がそれをとても大事な記憶としていたことが窺えるエピソードです。
※2 この場合の原作とは『涼宮ハルヒの消失』ではなく、『涼宮ハルヒの憂鬱』の方です。『憂鬱』で長門が読んでいた本が『何だか難しい外国人が著者の哲学書』です。『消失』でも『憂鬱』でも長門が借りた本に関する言及はなかったので、ここでの予想には『憂鬱』で長門が読んでいた本をあげています。


『長門有希ちゃんの消失』書評 『9〜14P』編 に続く
サイトに戻る