涼宮ハルヒの消失
〜長門視点〜

第一章




 …………ここは、どこだろう。


 一瞬、わたしは自分のいる場所がどこかわからなかった。
 辺りを見回してみると、そこは北高の校門前だった。少し首を傾げる。
 何で、こんな場所にいるのだろう。
 周りの薄暗さからいって恐らく明け方だと思われるが、わたしにこんな早くに外を出歩く趣味はないはず。
 寝惚けていたのだろうか。首を傾げながらも、とにかく家に戻ることにした。
 誰もいない、一人の部屋に。








 わたしには、友達がいない。
 中学までは遠くに住んでいて、高校から知り合いのいないこの高校に通うことになったからだ。
 高校に入学した当初は、きさくに話し掛けてくれた人もいたのだけれど、いつしかクラス内でグループが作られていて、わたしはどのグループからもはみ出してしまっていた。
 別に苛められているわけではない。
 唯、元々引っ込み事案で口下手なわたしが、グループに入れなかっただけ。
 それに、話し掛けられたりしても困る。何故なら、他の人たちが話題にしているドラマという物を、わたしは見た事がなかった。(というか、わたしの家にはテレビすらない)
 そういう話題を振られても困ってしまうので、本ばかり読んでいたのがいけなかったのだろう。(本を読んでいる時には話しかけようとする人もいなかったから)
 そして何より顔。
 どうもわたしは感情が表情に出にくいらしく、大抵の場合無表情だと思われているらしい。わたし自身は笑ったり、困ったりしているつもりなのだけど。
 それらのせいで、わたしはいつも一人でいることが多くなってしまった。
 小耳に挟んだ話だと、クラスではわたしが一言でも喋ると、その日はいいことが起きるか悪いことが起きるかのどちらかだ、と考えられているらしい。
 …………ちょっぴり、傷つく。
 更に間の悪いことに、せめて部活動をして人との関わりを持とうと入った文芸部には、誰もいなかった。
 一つ前の三年生には何人か文芸部員が居たそうなんだけど、わたしが入るのと入れ違いに卒業してしまっていたのだ。
 入部届けを出したときにそのことを言われて、正直がっかりした。
 同じ一年生で入部する人がいないかどうか期待したんだけど、結局誰も入らず、わたしは放課後、誰もいない部室で、一人で本を読むことになってしまった。
 本を読むのは好きだから、別に寂しいとか、哀しいとかは思わなかったけど、人との交わりが一切ないというのは少し寂しかった。
 わたしが(授業中先生に当てられたのは除いて)誰かとまともに言葉を交わしたのは…………。


 そう、あの図書館だった。


 あの図書館で、困っていたわたしに話し掛けてきてくれて、更に助けてくれた『あの人』。
 同じ高校に通っている男子。
 何組にいるのかもわかっている、一度、目にしてからは思わず目が彼を探していたから。
 でも、近づいていって話せるほど、わたしは社交的な性格じゃなかった。
 遠くから眺めているだけで、よかった。
 大げさかもしれないし、誰かに話したら夢想家か、むしろ詩情的思考者かと思われるかもしれないけど…………見ず知らずの人を助けてくれる人も、この世にはいるのだと実感出来るから。
 彼と親しくなれたらいいな、と思ってはいたけども。








第二章に続く
小説ページに戻る