涼宮ハルヒの消失
〜長門視点〜

第二章




 文芸部の部室にはあまり物が無い。


 あると言えばテーブルに椅子、それに本棚。そして、何故かパソコンが一台。
 以前文芸部に入っていた人が要らなくなったパソコンを持ってきたのでは、と思っているけど、本当のところは分からない。
 ネットに繋げられるような環境には無いので、わたしは文章を書くことのみに使っている。
 …………その文章はあまり人に見せたくない。
 それはともかく、本棚には結構色んな種類の本が置いてある。
 わたし好みの厚物が多く、わたしにとっては至宝に等しい。
 放課後ここで本を読むことにしてからは、色々本を持ち込んだりもしている。
 相変わらず物も少なく、殺風景とさえ言えるような部室だけど、それが逆に気に入っている。
 だからこの日も放課後、部室に来ていた。








 わたしが本のページを捲る音意外、部屋の中ではほとんど音がしない。
 わたししかこの部室にはいないから、ある意味当然ではあるけども。
 廊下を誰かが行き来する音も、この部室にいると良く聞こえてくる。
 わたしは長テーブルの角辺りに置いたパイプ椅子に座って、黙々と本を読み進めていた。
 十分くらいが経過した時だっただろうか?
 部室に向かっていた人達も皆それぞれの部室に入り、下校時刻まで静かになる筈の廊下から、足音が聴こえて来たのは。
 とはいえ、それほど異常な現象と言うわけではない。
 用事があって少し遅れて部室に向かう人だっているだろう。そういうことがこれまでにも何度かあった。
 しかし、わたしはその足音が気になって本から顔を上げた。
 その足音が、この部室に近づいて来ているように思えたから。
「まさか」
 思わず声に出して呟いてしまった。
 今はもう十二月。入学した当初ならともかく、今頃文芸部を訪ねてくる人など、居るわけがない。
 無意識下では、誰かが訪ねてくれることを願っているのだろうか?
 自分でそう思い、表情には出なかったけど、自嘲した。
 自分から近づこうとする勇気も無いくせに、誰か来てくれるように願うなんて虫が良すぎる話だ。
 わたしは響く足音を意識の外に追いやり、手元の本に集中した。




 まさに、その瞬間だった。




 ノックも無く、突然部室のドアが勢い良く開いたのは。
 思わず顔を跳ね上げ、ドアの方を向く。
 現れた人影を見、驚いて間抜けにも口を開け、その人を凝視してしまった。




「いてくれたか…………」




 そう小さく呟いた人は。
 五月の中頃、図書館で困っていた私を助けてくれた『あの人』だった。









第三章に続く
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