【KATHARSISTEM】
〜カタルシステム〜




 前回のあらすじ。


 高校の入学式の日。
 俺は交差点を曲がる時に、飛び出して来た美人とぶつかった。
 ベタな出会いで恋愛ゲームスタートか、とでもいうような展開だがその美人の持ち物が拳銃という危険物質だった……そんな危険人物と恋愛など、御免だな。
 挙句、俺は美人に追っ手に対する人質とされ、(ほとんど意味はなかったが)そしてどういう訳か、逃走する美人に拉致されるという展開に。


 ……自分で言っておいてなんだが……なんだこの展開。








 俺はいま、美人とその仲間達がアジトとしているらしい建物に連れて来られていた。
 その建物の一室に通される。
 その部屋は何かのクラブとかで使うような部室と同じくらいの大きさで、部屋の中央に大きな机、その周りにいくつかのパイプ椅子、壁際には棚や本棚があった。
 入り口と反対側の壁に窓があり、そこから見える景色は俺が見たこともない景色だった。どこまで連れてこられたのか……帰れるんだろうな、俺。
 黒塗りのタクシーのような車に随分と長い間揺られていたような気がするが……時計がなかったので、時間感覚がよくわからない。
 今は大分落ち着いたが、乗って暫くは混乱し通しだったし……。
 部屋の中に時計があるかと思ったが、軽く見渡してみても、それらしき物は無かった。
「とりあえず、そちらの椅子におかけください」
 俺の背後にいるイケメンの男が一つの椅子を指し示す。
 表面上は穏やかな様子だったが、全身からあからさまに「何でこんな奴をアジトに連れてこなければならないんだ」というオーラが滲み出ている。
 男の腰にある拳銃にビクつきながら、俺はとりあえず椅子に腰掛けた。
「凉宮さんがここに来るまで、暫くお待ちください」
 男はそれだけ言うと、俺と机を挟んで反対側の椅子に座る。
 ちなみに、涼宮とか言うらしい俺を車の中に引き込んだ張本人である美人は、この建物に入るや否やこの男に俺を任せ、もう一人の少女と一緒に何処か別の場所に向かった。
 何をしにいったのかは知らんが、とりあえずさっさと帰りたい。
 拳銃を持ち歩いているような危険人物達とは関わり合いになりたくないしな。
 っていうか、何で俺はいまここにいるんだ?
 凉宮とやらが俺を車の中に引き込んだからなのだが、そもそもなんであいつは俺を車に引き込んだんだ? 俺は関係無いだろ。
 そもそも、こいつらは一体何なんだ? このご時勢に、しかも日本と言う国で白昼堂々と拳銃を持ち歩いている時点で、まともな部類の人間ではないことはわかるが。
 色々疑問はあったが、俺がここにいることを好ましく思ってないらしい男に尋ねるのは気が引ける。
 触らぬ神に祟り無しって奴だ。
 仕方無く、凉宮とやらが来るまで大人しくしていることにした。


――暫く経って、


「ごめん、古泉君。ちょっと待たせたわ」
 凉宮というらしい美女と、無表情の少女、そして何故かメイド服を着ている少女が部屋に入ってきた。
 最後尾のメイド少女は、盆を持っており、そこには五つの湯呑みと急須が置いてある。彼女は俺の姿を目に留めると、困ったような笑みを浮かべて頭を下げてきた。思わず俺も頭が下がる。
 かなりの美少女だ。マスコットとして企業が使っていそうなほど整った顔立ちをしている。こんなメイドがいたらその喫茶店は大繁盛するだろうな。
 メイド少女が湯呑みにお茶を注ぎ、全員に配っていく。
 その間に、凉宮とやらは部屋の一番奥においてあった他のパイプ椅子とは違う、事務所などで使われているようなキャスター付きの椅子に腰掛けた。
 一方、無表情の少女は部屋の隅に置いてあった椅子に腰掛け、やたらと分厚い本を本棚から抜き取って読み出し始めた。
「さて、と……とりあえずあんた、名前は?」
 凉宮とやらが、やたらと高飛車な態度で俺に尋ねてきた。
 少しムッとしたが、ここで反抗しても何の意味も無いので素直に名前を教える。
 俺の名前を聞いた凉宮は暫らくの間、何かを考え、
「……めんどいから、キョンでいいわ」
 と言った。
 めんどいからって何だよ。
 そんな理由で人の名前を勝手に改訂するな。
 別に特殊な名前ではない筈だが。
 しかし、悔しいがいま涼宮が言った呼び方は実際俺が友達などに呼ばれている呼び方と同じだった。文句の付けようが無い。
 俺の名前などどうでもいい、というように、凉宮は自分達の自己紹介に移る。
「あたしは凉宮ハルヒ。そっちが古泉君で、あっちが有希。そこのメイドはみくるちゃん」
 名前が判明した男――古泉を見る。
「フルネームは古泉一樹です」
 別に訊いちゃいねえが。
 スマイル零円で売り出されているような笑みを浮かべている。
 次にマイペースに本を読んでいる有希、と呼ばれていた少女を見た。
 俺の視線に気付いたのか本から顔をあげ、真っすぐ見返してきた。
「長門有希」
 どうやら、それがフルネームらしい。
 ……有希というのも何なんで、長門と呼ぶことにしよう。
 最後にメイド少女を見ると、困ったような笑顔のまま、深く頭を下げてきた。
「えっと……朝比奈みくるです」
 ロリ顔だが物腰などを見る限り、俺より年下ってことは無いだろう。
 朝比奈さんと言い表すことにしよう。
「で、キョン」
 かなり高飛車な態度は変わらない凉宮ハルヒが偉そうに言った。
「巻き込んで悪いけど、あんた、帰さないからね」
「……は?」
 今、こいつ、いきなり、突然、なんつった。
 俺が思わず凉宮を見ると、凉宮は嫌な笑みを浮かべて、
「雑用係が一人欲しいと思ってたところだから、丁度良いわ」
 などと言う。
「ちょっ、待てよ! 何だよそれ!?」
 思わず大声を上げてしまったのは仕方ない。
 誰だってそうだろう。いきなり拉致されて、帰さないと言われ、挙句雑用係?
 ふざけている。
「巻き込んで悪いと思うなら、さっさと帰してくれよ! ふざけてんのか!?」
 自分で言うのもなんだが、俺は比較的冷静な性分だ。
 その俺が、この時完全に激昂していたのはあまりにも凉宮の言うことが理不尽だったからで、別に腹が減っていたわけでも、虫の居所が悪かったわけでもない。
「仕方ないでしょ。帰せないんだから」
 あっさりと言う凉宮の言い方に腹が立つ。
「何だよそれ!? 訳わかんねえ!」
 思わず立ち上がって凉宮に掴みかかろうとした瞬間、横合いから声がかけられた。
「まあまあ落ち着いてください」
 にっこりと笑っている古泉。しかし、その手があからさまに動いて、腰のホルスターに添えられた。凉宮に対して、下手なことをすれば即座に撃つと言うのだろう。
 撃たれるかもしれない、という恐怖に硬直した俺を確認してから、古泉は凉宮の方を向いた。
「凉宮さんも、もう少し丁寧に説明しないと、彼も納得してはくれないでしょう」
「うーん……わかった。古泉君。説明しちゃって」
 めんどうだからとは言わなかったが、その気持ちが実にはっきり伝わってくる。
「了解しました」
 凉宮の指示に嬉しそうに応じた古泉は、再び俺の方を見る。
「それでは僭越ながら、僕から説明いたしましょう。話は遮らないで頂けるとありがたいですが」
 言いながらホルスターに手を伸ばす辺り、何気にかなり性格が悪い。
 そんな動きを見せられてもなお、歯向かおうという奴がいたらここに来い。遠慮はいらん。喜んで代わってやる。
「まず、何故あなたを帰せないかということを説明する前に、我々のことについてお話しすることにしましょう」
 古泉は信用できない笑顔のまま、自分たちを端的に示すのだろう言葉を紡いだ。


「我々は【SOS団】です」


 俺には、全く訳がわからない言葉だったが。
 どんな活動をしている、どんな団なんだよ……。
 疑問は更に広がった。











3に続く
小説ページに戻る